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事業変革の3つの勘所

#column#DX
2021/04/30

中野 雅俊

老舗企業とのプロジェクトを通じて得た3つの気付き

新規事業開発、オープンイノベーション、DXなど、様々なキーワードの下、企業が自らの変革や新たな収益源を模索する流れは、いつの時代も変わらず存在します。それぞれの言葉の細かなニュアンスは違えど、既存の事業を強化したり全く新しい事業を創ったりという意味ではどれもその本質は同じであり、そこに求められる考え方や姿勢、行動様式もまた同じであると考えます。

本記事では、それらの考え方や姿勢、行動様式について、弊社がこれまで老舗企業とのプロジェクトを通じて得た3つの気付きについて共有していきたいと思います。

それらは特別難しい理論や考え方ではなく、とても普遍的でシンプルなものです。

それは、

・経営トップの強力なコミットメント

・チーム組成と文化の醸成

・業務理解とリスペクト

これら3つが、新しいことに取り組むプロジェクトにおいて、重要であると思います。

経営トップの強力なコミットメント

会社のサイズや歴史を問わず、プロジェクトの発起人や旗振り役が誰なのかということは、プロジェクトの成否を分ける要素として非常に重要です。大まかには経営層か現場かの二つに集約されます。

経営層が現場に指示して進める場合もあれば、現場が自ら発案して進める場合もあるかと思います。

ここで言う「経営トップの強力なコミットメント」というのは、経営層がプロジェクトの発起人であると同時に、自らもその進行に対して愛と責任を持ち、手を動かすということを示しています。

弊社がお客様と進めている、鋼板製造ライン自動化のプロジェクトにおいては、社長と技術顧問の方が、毎月必ず弊社と一緒に現場に赴き、会議やヒアリングを行っています。

時には社長と技術顧問自ら現場で手を動かし、一緒にトラブルシューティングを行うこともあります。その甲斐あって、現場の方々を巻き込みながら、かなりのスピード感を持ってプロジェクトを前に進めていることを実感できています。

一方で、他社様から様々なプロジェクトの打診や相談をされる時、経営層が全く絡まない場合は、話が立ち消えになるか、平行線のまま進まないことがほとんどです。

チーム組成と文化の醸成

プロジェクトを実際に進めていくにあたって、その構成メンバーとチーム内の文化(考え方や行動様式)は、事が上手く運ぶかどうかを決める重要な要素です。

受託開発においては発注者と受託者が契約上はっきりと分かれているため、発注側と受託側でプロジェクト推進が分断され、受託側企業に仕事が丸投げされたり責任を押し付けたりする状況が生まれてしまいがちです。また、違う会社である以上、文化が違う事がほとんどであり、それもプロジェクト推進の阻害要因となります。

弊社も初期の頃は、いくつかのプロジェクトでそれと似たような状況に陥り、良い結果が出せない状況が続くこともありました。しかし、会社間の役割分担やチーム組成、新たな取り組みに向けた共通の考え方や行動様式を共有し、一つのチームになることでそういった状況を打破してきました。

実際、バルブメーカーのお客様とは、お客様側の社員を出向で弊社に長期間受け入れ、OJT教育を通じて「チーム組成と文化の醸成」に真剣に取り組んでいます。

業務理解とリスペクト

最新の技術や取り組みを通じて事業の変革を行うには、その事業に対する深い業務理解が必要不可欠です。

事業は人が営むものである以上、多くの業務フローが存在し、それらが複雑に絡み合っており、個別の業務自体も複雑性が高い場合がほとんどです。そのため、単純なツールやパッケージの導入では現場に即したソリューションを提供することは難しく、対象業務を深く理解した上で、しっかりと要素分解して紐解いていく必要があります。

例えば食品や鋼材の生産を自動化するプロジェクトでは、現場の視察やヒアリングをかなり重点的に行っています。

このプロジェクトでは、現場の熟練作業者が阿吽の呼吸で業務をこなしていたところをデジタル化していくため、専用ツールやエクセルで業務の可視化を丁寧に行い、現場の暗黙知やノウハウを明らかにしていきます。

そうして要素分解されたものを技術の力で、いかに自動化するかを考案し実装に繋げます。

一方で、この「業務理解」という言葉はお客様の業務を弊社が理解することだけを指すわけではなく、お客様にも弊社の業務について理解していただくことも指しています。

ITの基礎的な知識を始め、最新の技術動向からツールの使い方まで、理解し習得していただくことで、こちらから提案や成果の妥当性評価を正しく行ってもらうことができます。そうして、お互いが相互に業務を理解し「リスペクト」し合うことでプロジェクトが大きく前に進んでいくと思います。

ここまで見てきた3つの要素は、どれも特別な方法論やフレームワークではなく、時代と共に変わることのない普遍的なことです。実際のプロジェクトの中で、以上のことをすぐに実現することは、そう簡単ではありません。

しかしながら、様々なしがらみや組織の壁を乗り越え、皆が現場を愛する心を持ってプロジェクトに邁進することができれば、全て上手くいくと信じています。