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製造業のDX ~生産財と消費財それぞれの場合について~

#column#DX#製造業
2021/05/12

中野 雅俊

製造業におけるDXとは

近年、DXというキーワードについて、新聞やニュースで目にしない日はない程、広く普及し、その必要性が叫ばれています。なぜ、これほどまでにDXが注目されているのでしょうか。

日本の産業構造は、その大部分が製造、流通、小売などのリアル産業であり、情報通信業に比べてデジタル化の余地と可能性を秘めた業種がほとんどであるためだと私は考えます。

また、DX=「デジタル技術による事業変革」と定義した際に、その言葉の意味を考えると、デジタル技術の導入による単なる業務効率化ではなく、既存の事業構造を大きく変化させ、新たな事業収益を創出することで、産業基盤そのものを一段上のレベルにしていくことが重要です。

では、これまで日本を支えてきた製造業におけるDXはどのようなものが考えられるでしょうか。

製造企業が作るモノによって、大きくは次の2つに集約されるのではないかと考えます。

①機械装置など、一度作ると長期で動き続けるモノ(生産財)の場合

それに紐づくソフトウェアやそこから生まれるデータを活用して新たな収益源を生むDX

②食品のように、生産されて即座に消費されるモノ(消費財)の場合

既存のモノづくりの仕組みをデータ分析や新たな業務フローを駆使してさらに強化し、 売り上げや利益を2倍にも3倍にもするDX

今回はこれらの具体例を、製造業のお客様とのプロジェクトを通して挙げたいと思います。

①機械装置など、一度作ると長期で動き続けるモノ(生産財)の場合

例1:機械装置のデジタル化による新たな収益モデルの創造

老舗鋼板生産装置メーカー弊社のお客様である工作機器メーカーは、鋼板生産機器を製造し、エンドユーザーに機器を販売し、機械メンテナンスサービスまで提供することが主なビジネスモデルです。

しかし、機器の売り切りビジネスだけでは、どうしても縮小均衡となっていくため、デジタル技術により商品や事業を変革し、市場に新たな価値を提供したいという想いが経営層にありました。

現在、こちらのメーカーでは、今まで熟練者が行っていた鋼板生産ラインの制御と、稼働状況の確認をAI・IoT技術により自動化し、鋼板生産の現場をデジタル技術で変革しようとしています。

また、AI・IoTシステムを継続的にアップデートすることを前提として、ソフトウェアライセンスモデルや、SaaSの月額課金モデルの様なビジネス展開が可能になるため、新たな価値と新たな事業収益の創出を目指すプロジェクトとなっています。

例2:バルブ情報のデジタル化によるバルブメンテナンス事業の創出

発電所や化学プラント向けの高圧バルブを製造するお客様の場合、従来のバルブ販売ビジネスに加えて、デジタル技術を用いた新たな収益機会を模索していました。

そこで、納めたバルブの諸元データを一元管理するシステムを弊社と構築し、バルブデータの見える化と解析を行う次世代バルブメンテナンス事業を立ち上げました。

また、事業を支える人材も、お客様からの出向受け入れを通して弊社が教育することで、技術と人材の両面から、新たな事業機会の創出を行うプロジェクトです。

②食品のように、生産されて即座に消費されるモノ(消費財)の場合

例:生産工程のデジタル化による増産と売り上げの拡大

大衆向けである食品は、市場における需要によって必要な生産量が変化することと、賞味期限があることで、常に廃棄の問題があることが業界一般の課題として存在します。

弊社の食品メーカーのお客様の場合、売り上げを倍に伸ばすことができるポテンシャルがあるにも関わらず、前述の課題により大規模な拡販と増産を行えない状況でした。

現在取り組んでいるプロジェクトでは、自動での需要予測を起点とした資材、生産、出荷の最適化システムを構築し、データに基づいた定量的な経営判断を行うことで、増産による売り上げの拡大を目指しています。

既に持っているモノづくり企業としての強みを、デジタル技術により最大限まで引き出し、一段階上のビジネスへと引き上げることを目指したプロジェクトとなっています。

ここまで見た実例の様に、デジタル技術により事業構造を変えることで新たな収益源を創出し、既存の事業を強化して売り上げや利益を倍増させることがDXで目指すべき姿であると思います。

また、それを推進していくことが、日本経済に対して大きな影響を与えるものだと考えます。

前回の記事ではDXの勘所の一つとして、経営トップの強力なコミットメントの重要性について説明しましたが、前述のデジタル技術による事業変革を達成できるかどうかは、まさに経営トップのコミットメント次第であると考えます。

デジタル技術が事業に対して、どういう変化や影響を及ぼすかを経営層がいかに構想し、方向付けすることができるかがDXの成否を分ける大きな要素ではないでしょうか。我々は長期的なパートナーとして、構想から事業化に至るまでサポートいたします。