中野 雅俊
私は最近「ユーザー中心組織論」という本を読みました。
この本には、モノをつくる組織がユーザー中心の視点となって、共通視点をもつことで、ユーザーに新しい価値の提供につながることが記してあります。
今回は、この本を読んで、まずは身近なところから日常でユーザー中心の視点を鍛えることを実践できそうだと感じたので、それについて考え、また実践した話をご紹介したいと思います。
この本の肝となるのが「ユーザーエクスペリエンス(=UX)」という概念です。
UXを直訳するとユーザーの体験という意味になりますが、もう少し言い換えるとサービスやプロダクトを通じて得られる体験のことです。体験の結果、「このサービスは継続して使いたい!」「このプロダクトは素晴らしい」というようなことをユーザーに感じてもらえるように、日々、ユーザーの視点に立って開発を進めていくことが理想です。
「UX」と聞いて思い出したのは、私の前職でもある学校の先生たちの仕事内容でした。学校の先生たちは、日々生徒たちに「体験」を届ける仕事をしているのではないかと思ったからです。
学校の先生の業務は授業や学級経営など、人と人が関わるシーンが実に多く、その中で生徒や保護者によりよい体験を届けることを目標にしていることが多いと思います。
例えば、授業を行う際に、ただ知識だけを提供することもできますが、どうしても一方的になりがちです。
その授業の体験の中で、いかに生徒にとって「楽しい」「面白い」「わかりやすい」という気持ちを持てるかどうかで、生徒たちの学校に対する印象や、信頼度、学問への興味がぐっと変わってきます。
日々生徒の立場に立って体験を考え、小刻みにそれを毎日休みなくリリースしているような状態です。
例えば、
「下書きまではいいけど色を塗ることが苦手な生徒」
↓
どうして苦手なのか?画材の問題か?それとも配色が苦手なのか?
↓
それを尋ねる
↓
原因が「絵の具が思い通りに塗れないこと」だと判明する
↓
絵の具と水の適量や、筆の使い方を何通りか知識としてレクチャーする
↓
絵の具が使えるようになったため、色を塗ることは苦手ではなくなり、生徒にとって絵を描く時間の体験が向上する
これを思い出したことで、「人と関わる上で相手の視点に立つ」ということを基本に考え、行動していけばよいのだと思いました。
では、今度は日常の中でユーザー視点に立つことを実践した話を書いていきたいと思います。
例えばよくあるシーンで、
「今日晩ご飯何食べたい?」
「何でもいいよ〜」
「何でもいいじゃ困る!」
というやりとりがありますよね。この状況を変えるにはどうしたらいいのでしょうか?
「晩ご飯なんでもいい」で検索すると約8,200,000件も出てくるようです。これを改善するための一つの方法としてUXが絡んできそうです。
私も晩ご飯を作る時にやってみました。まずは聞き方を変えてみます。
「今冷蔵庫にじゃがいもとにんじんがある。材料を買い足せば肉じゃがかカレーが出来ます。どっち食べたい?」
作ることが出来る献立を二種類提示することで、ユーザー(=食事を提供される側)選びやすさがぐっと上がります。
ですが、逆に晩ご飯を尋ねられた側が、「なんでもいい」を改善することも出来ます。
「晩ご飯何食べたい?」
「そうだね〜、冷蔵庫に何か残ってたっけ」
「トマトと玉ねぎがあったかな。」
「じゃあそれ使った料理とかいいかもね!パスタとか」
お互いの立場に立ってみると、まず晩ご飯を作る側は、途方もない何通りもあるメニューの中から選んで作らなければなりません。せめて少し絞りたいですよね。
しかも、相手の食べたいものから大きく外れてしまったら嫌なので、「ご飯何がいい?」と聞いているのです。
しかしながら、聞かれた相手はよほどこれが食べたい!と思っていなければ「なんでもいい」になってしまうのです。
また、「何食べたい?」を尋ねられる側になったときは、ここは「何食べたい?」の質問の答えとは少し外れてしまうかもしれませんが、相手が本当に求めていることは何なのか(=晩ご飯は何を作ればいいかヒントがほしい)をもとに、会話をしてみるという試みをしてみました。
UXやユーザビリティは、物作りからサービス業まで関わりがあり、日常のそこかしこにあるものであり、日頃から考えることが出来るものなのではないかと思いました。
ユーザー視点に立って物事を考えるのは、顧客がいるサービスであれば、やって損はないように思います。
そうして実際に実務に入っていって、一番感じたことはやはり「息をするようにユーザー視点とは自然なものであり、常に目指すべき指標」ということでした。
今後もUXを考えていく上で、日常の中からの発見を大事にしていきたいと思います。