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DX実現への第一歩、ナレッジマネジメントの重要性

#column#DX#製造業
2021/07/19

青山 遼

「ナレッジマネジメント」に興味をもったきっかけ

大学院を修了後、三年勤務した自動車メーカーからRegnioに参画して二年が経ちました。

自動車メーカーに在籍していた当時を振り返ると、「経験」という言葉のもと、情報共有や教育が十分に行われていない状態で、仕事の依頼や伝達が行われており、組織としての効率の悪さに疑問を感じるようになりました。

それを自身のキャリアを通じて解決していきたいと思うようになったことが、私の転職のきっかけでした。

製造業のDXを進めるRegnioでの業務を通して、前職を辞める際にはおぼろげにしか頭の中になかった「組織としての効率の悪さ」に対する改善方法が徐々に見えてきました。

組織内でなぜ仕事が整理されてないのか?

そんな悩みを抱くあの頃の自分のように、製造現場で働く新人エンジニアにとって、この記事が何か解決の糸口になればと思います。

当時、私が感じていた組織としての効率の悪さは「仕事が整理されていない」ことに起因するのではないかと思います。

誰もが効率よく仕事したいと思っているにも関わらず、日々の業務に忙殺され、組織の文化やメンバー個々人の考え方により、場当たり的な仕事の進め方になってしまう。

しかし私は、そんな時こそ組織や個人が持つ知識や情報、経験などを体系的に記事としてまとめ、記事として残し、皆がいつでもそれを参照できるようにする「ナレッジマネジメント」が非常に重要だと感じるようになりました。

私の「ナレッジマネジメント」の実例

ナレッジマネジメントのためのツールは有料・無料問わず、様々なものがありますが、どのツールを使う場合でも、基本は以下の三点を一つのドキュメントとしてまとめることが重要だと思います。

  • 作業に取りかかる前に、今から実施する作業の目的や手順を明確に記述する
  • 作業を手順に従って実施していく中で、調べた情報を記述する
  • 作業の結果とそれに対する考察と残課題を記述する

これらを徹底することで、自身の業務を効率よく進めながら報告資料と業務の手順書ができあがり、ナレッジの共有が可能になります。

実際に私の業務の一つである「機械学習を用いた製造ラインの自動化プロジェクト」を例に、ナレッジマネジメントについて具体的に説明したいと思います。

私が担当している業務の目的は「ライン制御における機械学習モデルの精度向上」で、そのために必要な作業を以下の手順に分割していきました(以下、個別の単語の意味の説明は割愛します)。

① データの準備

② 画像処理

③ CNN推定

④ 推定結果のグラフ表示

⑤ データの前処理

⑥ RNN推定

⑦ 推定結果のグラフ表示

⑧ 学習ラベルの作成

⑨ 再学習

私が実際に行っている記録の一例。

それぞれがどのソースコードに紐づくかを、一つ一つ記事にまとめ、それぞれのソースコードを実行することで、機械学習のルーティンワークが誰にでも進められるようにしました。

ソースコードはPythonという言語で書かれており、多用する関数についても記事にまとめています。

これらのまとめた記事を、業務を依頼する際に一緒に渡すことで、スムーズなチーム連携が可能となりました。

また、業務を一つ一つ手順に落とし込んでいくことで、どこにどれだけ作業工数がかかっているかを把握できるようになりました。

最も作業工数のかかる箇所の業務効率化もあわせて依頼することで、ただのルーティーン作業の譲渡にとどまらない、一歩踏み込んだ業務依頼をできるようになりました。

以上のことから、ナレッジマネジメントのメリットは以下の三点が考えられます。

  • 属人化の廃止:作業担当者でなくても、まとめられた情報を参照することでその業務を実行できる
  • 冗長性の排除:メンバーの作業内容を可視化することで、組織内で業務の重複が無くなる
  • 技術力の向上:後任者が前任者のナレッジを元に、仕事を始めることができる

このように、ナレッジマネジメントを徹底すれば組織の効率や生産性が向上し、メンバーも快適に業務を行うことができます。

ツールは様々なものがあると言及しましたが、弊社ではナレッジマネジメントにCrowiというツールを使用しています。

このツールはオープンソースなので無料ではありますが、一定のエンジニアリングの知識や技術が必要になります。

自社にエンジニアが居ない場合は、Notionというツールがおすすめで、ベンチャー企業ではよく用いられています。他にも多くのサービスがあるので、色々と調べていただき、実際に使ってみていただければと思います。

モノづくりとITの融合

ナレッジマネジメントは今に始まったことではなく、技術標準書の作成や共有フォルダの利用など、様々な方法で試みられてきました。

ただし、それらは実際の作業において、多くの課題がありました。

以前、私が自動車メーカーで働いていたころは、紙と共有フォルダが混在する情報管理方法でした。

情報の特定に時間がかかり、結局かつての前任が作っていたかもしれない資料を自作する羽目になってしまうということがありました。

また、これまで日本の製造業は、暗黙知(経験や勘、直感などに基づく知識)や形式知(数式や文章で説明できる知識)は各エンジニアの頭の中にあり、モノに触れて色々と試行錯誤を繰り返すことで良いモノを作ってきました。

なぜなら、ナレッジを共有することは自社の技術を流出させるリスクを伴うからです。そのため、製造業では企業間の情報開示の方法も、ナレッジマネジメントの進め方に大きく影響しているのではと考えています。

このように、製造業では、現場の勘を大切にする文化、情報開示のポリシー等が相まって、本格的なナレッジマネジメントが進んでこなかったのではないかと分析しています。

政府が推進する働き方改革は、私達の生活の質を高める目的とともに、労働生産性を高め、労働人口減少に対応する目的があります。

それは、若手社員にとって経験が不十分な中で最小限の時間で、最大の成果を上げることが求められる困難な状況とも言えます。

しかし、若手社員には高いITリテラシーが備わっています。日本の製造業を発展させた先人の暗黙知や形式知を、日々進化するITツールで一つ一つ保存していき、会社の資産を守ることが今の若手製造業社員に求めらているのではないでしょうか。

ITの世界では、ブログでの積極的な技術的知見の発信や、ナレッジマネジメントサービスへの投稿を通じて、企業の垣根を越えた技術交流が日々行われています。体系化された知識や情報こそが価値であり、これらがITエンジニアの生産性を高めているのです。

製造業においても、これからナレッジマネジメントについて同様の考え方や、やり方が広がり、モノづくりとITが融合することで、産業全体がさらに力を発揮するのではないかと考えています。

「ナレッジマネジメント」の先にDXがある

ここまで、ナレッジマネジメントの重要性を訴えてきましたが、今メディアで騒がれている事業変革という意味でのDXの実現は、このナレッジマネジメントの先にあると考えています。

どんなシステムを組むとしても、現在の業務内容や慣習、手順、役割分担など、現場の情報を明らかにし、関係者間で共有することから始まるからです。

もしも、それらの情報が現場で共有されずに眠っている場合は、誰もが見ることのできるナレッジとして構築していく必要がありますが、一度に行おうとすると、その作業はかなりの労力を要します。

各個人が自らの業務を正確に把握し、少しずつでも文章としてまとめ、チーム内で共有することが、最適化への第一歩となります。

さらにその活動が会社単位になることで、初めて事業変革の意味でのDXが実現できるのではないでしょうか。