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製造現場でのデータ利活用

#column#DX#製造業
2022/01/13

青山 遼

今の製造若手社員に求められること

以前勤めていた会社で、私は工場の保守・改善に従事していました。

私が担当していた改善業務は実際に生産されている製品をより少ない鋼材で作れるように型を変更する「原価低減」でした。

型の変更により出現する不良品の種類は多岐に渡り、各不良にはどんな型の変更が必要かなど勘と経験が必要な業務です。

改善業務において犯した失敗を振り返ると、前任者と同じミスをしたり、良かれと思って実施した変更で不良品が多く出たり、枚挙にいとまがありませんでした。

配属先の先輩社員から「業務を遂行する上で落とし穴に落ちる社員と落ちない社員がいる。最も愚かなのは自ら落とし穴を作って落ちる社員である。」という言葉をいただいたのを思い出します。

一方で上司からは「俺の時代は月残業100時間が許されていた。その時間を使って多くの経験を積めた。だから効率よく成果を上げるためにどんなアドバイスするべきかわからない。」とも。

今の製造若手社員に求められるのは「限られた時間内で効率よく成果を上げること」だと私は考えます。

属人化しない仕組みづくりが組織全体の成果を底上げする

学生時代を振り返ってみても、私は効率よく行動するのがあまり得意ではありませんでした。

最も象徴的なエピソードを紹介すると、学生時代、試験間近にも関わらず教科書の1ページ目から勉強しているのを見た友人から、真顔で「間に合わんでしょ」と言われたことです。

僕にとって試験をパスするよりもその学問を学ぶことが目的だったことが原因と思われます。

もっとも勉強を始めるタイミングを早めればその指摘をうけることはなかったのですが。結局僕はその試験をぎりぎりパスしましたが、その友人はというと成績優秀者の隣の席を陣取ることに注力して悠々とパスしました。

試験をパスすることを目的とすれば、友人の方が効率よく成果を上げています。仕事に置き換えて考えてみると、目的を手前に設定してミスしない社員が重宝されます。

本来仕事は一人で完結することが少ないですし、裾野の広い製造業なら尚更です。

前述の落とし穴の話をしてくれた先輩社員も部署のエースでした。しかし、ミスを減らそうとすると、どうしてもやることの範囲が限定され、自己の業務遂行に注力するため視野が狭くなるデメリットがあると思います。

もちろん傾向の話であって皆がそうだと言いたいわけではありません。しかし、そこにこそ「効率よく行動できない社員が製造業界で活躍するチャンスがある」のではないかと考えます。

うまくできないからこそ「誰もが一定レベル以上で成果を上げられる環境」、すなわち「属人化しない仕組みづくり」によって組織全体の成果を底上げすることに注力すべきではないでしょうか。

データの利活用が属人化しない仕組みづくりに繋がる

ではどのように「属人化しない仕組みづくり」に取り組むか。私は「ITツールを用いたデータの利活用」を提案します。

私の前職の工場にはトレサビ(注1)が導入され製造の指標となるデータが日々蓄積されていました。

しかし、そのデータは何か不具合が起きた場合にエクセルでデータを確認する程度にしか活用されていませんでした。

私はそのデータをうまく活用すれば、多くの経験を必要とせず「誰でも効率よくミスの少ない改善業務に従事できる」のではないかと考えました。

たとえば先述の原価低減業務でも型の変更前後の不良の種類と割合などデータを蓄積していくことで予測の精度が上がり、実際に経験しなくともデータを用いた予測から次の改善方法が導けます。

しかし、トレサビを導入してくれた会社にデータの利活用を提案しても無理だと断られました。社内でも責任の所在が明らかになるように、当時はPythonなどのオープンソース(注2)の活用が制限されていたことや、私の提案が中途半端なものだったことが原因です。

効率よく成果を上げられない自分に失望し、ITという選択肢に固執し、結果これといった成果を上げずにITベンチャーに転職しました。現在では、Regnioにて製造業のデータの利活用を支援しています。

社内と社外の両輪がうまく駆動することで仕組みづくりが加速する

今はDXという言葉の流行もあり、製造業におけるITツール導入が活発です。トヨタでもTeamsが導入されたと聞きましたし、製造業に向けてITサービスを展開する企業も増えています。

社内にいようと社外にいようと製造業を盛り上げたい気持ちは変わりません。

「データを利活用した属人化しない仕組みづくり」を進めるには社内と社外で役割が異なり、その両輪が上手く駆動することで加速することを今の業務で強く実感しました。

かつての私のように、データの利活用によって業務遂行したいあなたに、私たちRegnioは無理だと言いません。

注1:トレーサビリティシステムの略。その製品がいつどこでだれに作られたかを追跡可能にするシステム。

注2:オープンソースソフトウェアの略。利用者の目的を問わずソースコードを使用、調査、再利用、修正、拡張、再配布が可能なソフトウェアの総称。