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答えのない「アート」について考えたこと

#column#アート
2021/05/26

中野 雅俊

皆さんはアートに対してどんなイメージをお持ちでしょうか?

人によっては「敷居が高くて遠い存在だ」と感じることもあれば、「よく分からないけど楽しい」「クリエイティブな感性が刺激される」など、様々な感じ方があるかと思います。

私は大学時代から美術館や博物館に通い始め、28歳の時に絵を描き始めました。多くの作品を観る中で、インプットだけではなく自分でアウトプットしたい(=創作活動をしたい)と思うようになったのがきっかけです。

最近では、企業が社員のイノベーション教育の為にアートの鑑賞方法や創作方法を教えることが増えてきたようです。

今回はアートとイノベーションの関わりや、アートが仕事や人生に与える影響について考察してみたいと思います。

週末を使って半年かけて描きあげた油絵作品

アートはビジネスのイノベーション創出に役立つか

どうしてアートがイノベーションにとって大事だと思われているのでしょうか?

それは、「今までにない視点と柔軟な発想でビジネスモデルやアイディアを考える」というビジネス目標と、「明確な正解の無い世界において様々な解釈や表現法を用いて作品を創る」というアートの特性が合致しているためだと考えます。

実際に、自分のこれまでの経験に照らし合わせて考えてみると、趣味としてアートに触れてきた事が、ビジネスの構想やアイディアを練る上で役立ってきたようにも思えます。

しかし、自分の考え方や視点、思考の結果はこれまでの人生経験によるところが多く、アートの素養がビジネスに良い影響を与えているかどうかは、明確な因果関係を持って説明しづらいというのが正直なところです。

そもそもビジネスの現場では構想やアイディアを実行に移し、次々起きる問題を根気強く解決していくことの方が重要だと考えています。

よって、私はアートがビジネスに対してどう「役立つか」という視点ではなく、さらに重要な意義があるのではないかと考えています。

それは、アートの素養とは、その人の人生に深みと彩りを与え、さらに良い方へと導いてくれものだということです。

会社のレクリエーションとして皆で大きな画用紙に絵を描く

人生の彩りとしてのアート

私は絵を描き始めてから得た大きな気付きがありました。それは「いかにモノをよく見ていないか」ということです。

何かを観察してスケッチブックに絵として落とし込んでいく時に、自分では対象物をしっかり目で捉えて観察しているつもりなのですが、目の前にあるモノの質感や色、影、反射等の特徴を的確に捉えて表現ができず上手く描けないことが多いのです。

しかし、描くことを繰り返すうちに、一つのモノを様々な角度から深く観察することができるようになり、モノの特徴を捉えた絵を描くことができるようになりました。

また、それによって日常生活におけるモノの見方が変わりました。

絵描きをテーマにした漫画「ブルーピリオド」では、主人公が「ものの見方は、少ない側面からしか見れてないし、それをアウトプットする技術も弱い…」と痛感するシーンがあります。

しかし、彼が成長するにしたがって、鉄の錆を見ながら「まさか錆をかっこいいなんて思う日がくるなんて。これは絵を描いてたからこそ気づいたかっこよさだ!」と気付くようになります。

絵を描くことや、アートを通じてものの見方や感じ方が広がり、生活や人生の幅が広がっていく。

当たり前に身の周りにあるものや無造作に置き捨てられているものに美や楽しみを見出し、日々の生活をより豊かに過ごしていく。

これらがまさにアートに触れる意義なのではないかと思います。

最近では作品のシェアリングサービスや、面白い催しが増え、アートはますます身近なものになってきています。

より多くの人がアートに触れ、感受性を全開にし、より豊かな生活を送ることができればと思います。