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製造業における資金調達手段の多様化について

#DX#資金調達
2021/11/19

中野 雅俊

製造業における資金調達手段の多様化について

私はRegnioで取締役CFOをしているのですが、私たちのお客様の大半は何らかの製造業に該当します。

製造業について、中長期にわたって成長し続けるためには成長投資(有形固定資産(例:設備)、無形固定資産(例:IT)等への投資など)を適切なタイミング、適切な方法で行い、いかに競争力の源泉を生み出していくかが肝だと考えています。

今回はその製造業(主に中小・中堅企業)の資金調達手段を、1つご紹介したいと思います。

①コーポレート・ファイナンス(企業の資金調達)の種類

企業の財務活動全般を指して、コーポレート・ファイナンスと呼ぶ場合と、その中で特に調達活動(および配当政策)を指してコーポレート・ファイナンスと呼ぶ場合がありますが、今回は後者の場合における意味でのコーポレート・ファイナンスについて解説していきたいと思います。

コーポレート・ファイナンスは一般的には大きく2つに分けられることが多いです。

1つ目は、株式を発行することで資金を調達するエクイティ・ファイナンスです。

2つ目は、金融機関や投資家からお金を借り入れることで資金を調達するデット・ファイナンスです。

エクイティ・ファイナンスとデット・ファイナンス

エクイティとは「株式」を意味し、デットとは、「借金・負債」を意味します。最大の違いは、エクイティ・ファイナンスの場合、原則として株主に出資金を返す必要がないのに対して、デット・ファイナンスはいずれ返さなければならない資金調達となり、今でこそ減って来ていますが、代表者が連帯保証人となるケースが大半です。

そのため、株式の発行によって調達した資本を自己資本、金融機関などからの借入によって調達した負債のことを他人資本と呼びます。

つまり、貸借対照表上では、デット・ファイナンスが負債の増加をともなうのに対して、エクイティ・ファイナンスは資本の増加を伴うところに大きな違いがあります。

将来的に返済義務を負う調達方法であるデット・ファイナンスと、返さなくてもよいエクイティ・ファイナンスとでは、明らかにエクイティ・ファイナンスの方が優れているようにも考えられるでしょう。もちろん、エクイティ・ファイナンスにもデメリットやリスクは存在します。

エクイティ・ファイナンスのデメリット

まず、資金を返さなくてもよい代わりに、株主は株主総会に出席して議決権を行使することで、会社経営に対する発言権を得ることができます。

金融機関の場合、貸したお金(金利も含めて)が返ってくれば、会社経営にまで言及されることはありません。

つまり、エクイティ・ファイナンスを行うことは、会社に対して「モノ言う権利者」を増やすことになります。中には、後ろ向きな発言をすることで、会社運営上マイナスになることもないとは言い切れません。

メザニン・ファイナンス

一般的には上記の2つに分けられますが、実務的には3つに分けることができると思っています。

上記に加えて、メザニン・ファイナンスがそれにあたります。

政府系金融機関である日本政策投資銀行が以下のように定義をしています。

「メザニンファイナンスとは、従来金融機関が取り組んできたシニアローンと、普通株式によるエクイティファイナンスの中間的な金融手法です。

メザニンファイナンスには、劣後ローン/劣後債、優先株/種類株、ハイブリッドファイナンスなどの種類があり、いずれもシニアローンと比べて返済順位が低いためリスクが高い資金になりますが、投資リスクに見合った金利・配当水準が設定されることによって、経済合理性が確保されています。」

※シニアローン≒デット・ファイナンス

(引用元:日本政策投資銀行 HP

図で示すと以下のようなイメージになります。

調達手段はこのようにいくつかの階層があることを知っておくとよいかと思います。

②製造業との相性が良いメザニン・ファイナンス

個人的には、最後にあげたメザニン・ファイナンスが製造業との相性が非常にいいなと思っています。なぜなら、

■製造業は、中長期的な成長のために、多額の設備投資が必要となる業種である。

■投資を従来の銀行融資のみに偏重すると、負債が増加し、自己資本比率が低下してしまいます。ひいては、与信の低下(資金調達の制限や取引先との支払条件に影響がでてしまうなど)につながりかねない。

■エクイティ・ファイナンスとなると議決権を一部渡す必要があるが、メザニン・ファイナンス(特に優先株式での資金調達)は議決権なしでの設計が可能。

順序としては、デット・ファイナンスを基本の調達手段とし、その後にメザニン・ファイナンスを検討する流れが良いと、私は考えています。

Regnioが拠点を構えている福岡でも豆腐等を製造している三好食品工業によるメザニン・ファイナンスの事例が出ています。

工場新設の際に、自己資金や銀行融資だけではなく、優先株式を用いて大型の資金調達を実現しているもののと推察されます。

三好食品工業(株)に対し、投融資一体型サービス通じた成長支援を実施(特定投資業務) | 取組事例

製造業の中長期的な成長のためには、いかに投資を適切なタイミングかつ、適切な調達手段で行っていくかが肝になると思います。

1つのアイデアとしてメザニン・ファイナンスをご検討されてみてはいかがでしょうか。

出典:

独立行政法人中小企業基盤整備機構「J-Net21」

グロービス経営大学院「コーポレート・ファイナンス」

日本政策投資銀行「メザニンファイナンス」

日本政策投資銀行「取組事例一覧」