中野 雅俊
ここ1~2年、「DX」という言葉を耳にする機会が急激に増えました。私も、最初は「なんとなくよく聞くワードだなぁ」くらいの印象だったのですが、今ではDXを牽引する人材となるべくRegnioに研修に来ており、しっかりとDXに関わっています。
今、当社(岡野バルブ製造)を含め、多くの製造業にてこれらの推進に注目が集まっていると思います。
しかしながら、実際に取り組むとなると、
■どう進めればよいか分からない
■チームメンバーの考え方が統一されず遅々として進まない
といった事象に頭を悩まされている方もいらっしゃると思います。
本記事では、DXを実践したいと考える経営層の方や業務推進担当者の方へ向けて、私がRegnioでの研修を通じて得た、DXを本格的に進める前に行うべきことについての所感をまとめたいと思います。
まず、DXに取り組む目的は何でしょうか。
基本的には、自社や顧客の何かしらの経営課題の解決が挙げられると思います。
しかしながら、これらの課題についての解像度が低く、明確に分析・整理できていない状態でDXを進めようとしても、方針が立てられず、担当者が何をすれば良いか分からない状態となり、現場や顧客に共感が得られず、受け入れられない可能性が高いと考えられます。
デル・テクノロジーズが2021年度版のDX動向調査の中で行ったDX進捗状況評価によると、アンケートに回答した1000人以上の規模の企業661社のうち、9割方が「成熟したデジタルプラン、投資、イノベーションを確立しているデジタル導入企業」とは言えない結果となり、さらにその中で明確なDXのビジョンや目的を持つ企業は全体の11%にとどまっています。
未だ多くの企業において、DXを推進する必要性を漠然と認識しながらも、明確な方針が存在しないのが実態です。
なすべきことが不明瞭な状態では、DXが進捗しないことは必然であるとも言えるでしょう。
このような状況を打破するためには、方針の基盤となる自社や顧客の経営課題について分析を行い、解像度を上げ、真に解決すべき重要な課題を見出した上で、関係者の共感を得ながら進めることが重要であると考えています。
では、解決する価値の高い課題を見極め、関係者の共感を得られる方針を立てるためにはどうすれば良いのでしょうか。
私は、研修者という立場から、主に食品業界の課題を解決する「Regnio Factory」のプロジェクトに参画したことでRegnioがどのようにして課題を見極めているかを知ることが出来ました。
■仮説立案
顧客や会社関係者との会話や業界データ等を元に、業界に共通する重要課題の仮説を立案
↓
■市場調査
業界の経営層や有識者から課題に繋がる情報を収集
↓
■現場調査
実際に現場を訪問し、担当者から課題感を抽出
↓
■仮説再構築
調査結果を元に仮説を再構築
↓
■再調査
市場調査、現場調査を再度実施
↓
■課題確定
顧客の重要な経営課題を確定する
Regnioは上記のようにして業界に共通する重要な経営課題を認識した上で、自社の強みであるデジタル技術を駆使した課題解決アプローチを試みています。
最初の段階では自社や顧客の本当の課題には行き着かず、仮説の状態になるかもしれません。
しかし、これを元に聞き取り調査と仮説の再構築を繰り返し、本当の重要課題にたどり着いたと言える段階に至ることができれば、自社の強みを活かして、どのような貢献ができるかの検討を行うことができ、今後の方針を立てることも容易になると考えています。
上記は顧客課題確定に至る例ですが、自社課題の場合でも関係者との会話やデータから生まれた仮説から、聞き取り調査などで仮説の検証を進めていき、重要な経営課題を確定させていくという流れは同じです。
DXは経営課題を解決する手段の一つでしかなく、理由に乏しい無理な変革を行う必要はありません。
例えば拡大中の新規事業において人手不足により利益が伸び悩んでいることが明らかな場合は、事業担当者の時間を多く奪っている業務を見直し、改善(電子契約、ビジネスチャット、営業支援ツール導入など)を図ることで、業務が円滑になり、新規事業に取り組む人材を増やすことが出来るかもしれません。
上記の例は単なるデジタル化による改善であり、「X:変革」に至るものではありませんが、自社にとって重要度の高い課題を解決できるのであれば、必ずしもDXにこだわる必要はないと考えられます。
「DX」が今後の製造業発展に重要なキーワードの一つになることは間違いありません。
しかしながら、これらの言葉だけに囚われずに、今一度自社や顧客の経営課題について真摯に向き合い、しっかりとした行動基盤を構築する姿勢を大事にしたいと思います。